3Dプリンタの材料であるフィラメントはさまざま色のものが販売され、最近では1つのフィラメントの中に複数の色が混ざったフィラメントが流通しています。
そんな中、以前Reprapper(@ReprapperTech)さんより2色のマットPLAフィラメント(赤&青)を頂いたのですが、今回はさらに1色増えた、3色のシルクPLAフィラメント(Green / Purple / Copper)をご提供いただきました!
2色フィラメントのレビューが気になる方はこちらのリンクよりご覧ください。
≫ Reprapper 2色マットPLAフィラメントを使ってみた【3Dプリンタ】
本記事では、提供していただいた3色フィラメントの使用感について、さまざまなプリント結果を見つつレビューしようと思います!
Reprapper製3色シルクPLAフィラメントは10種類以上の組み合わせがあるので、気になる方は以下のリンクから確認してみてください。
3色フィラメントとは?
主な特徴、製品仕様
今回頂いたフィラメントの大きな特徴はやはり、1本のフィラメントに3色が含まれている点です。フィラメントの断面を見ると、3色が分かれているのがわかります。このような製造方法により、見る方向によって色が変わるオブジェクトを印刷することができます。
以前レビューしたReprapperの2色フィラメントは艶のないマット仕様と、艶のあるシルク仕様の2種類ありましたが、3色フィラメントではシルク仕様のみのようです(2023/04/01時点)。
フィラメントの推奨印刷設定ですが、以前の2色フィラメント同様、AmazonやReprapperの商品ページには詳細な情報はありませんでした。フィラメントスプールには以下の情報が記載されたシールが貼っていましたが、ベッド温度の推奨値は無かったです。以降でも紹介しますが、一般的なPLAのベッド推奨温度60 ℃で使ってみたところ問題ありませんでした。
フィラメント重量 | 1kg |
素材 | Matte PLA |
フィラメント径 | 1.75mm |
印刷温度 | 180 – 220 ℃ |
ベッド温度 | - (記載なし) |
商品開封
Amazonを通して入手したので、2日程度で商品が手元に届きました。スプールはビニル製の密封パックで包装されていました。チャック付きなので使用後保管するときにも使えます。シルクPLAというのもあり、艶がきれいですね。
テストプリント
開封直後の3色のマットPLAフィラメントを使い、3Dモデル共有サイトに公開されているデータを使って、テストプリントしてみました。以降では各モデルのスライス設定や印刷結果の写真とともに、実際に使って感じたことをまとめます。
使用機種とノズル
今回のテストプリントでは、Prusa Researchの3DプリンタPrusa MINI+を使いました。押出方式はボーデンタイプで、エンクロージャの無いオープン型です。
ノズルは標準搭載とAmazonで購入した2種類のノズルを使いました。
- E3D製 0.4mm 真鍮ノズル
- AFUNTA製 0.8mm ステンレスノズル(Spiral vaseモードで使用)
印刷設定
スライサーソフトはPrusaSlicer 2.5.1を使い、以下の設定値を使ってスライスしました。印刷およびフィラメントの設定内容はスライサー内のプリセットを元に調整しました。また、モデルによって部分的に設定値や条件を変更している項目もあります。
- ノズル温度:210℃ (メーカー推奨180 – 220°C)
- ベッド温度:60℃ (推奨値なし)
- 冷却ファン:100%
- リトラクション:3mm
- 積層ピッチ:0.2mm(Spiral vase適用時は0.4mm)
- 移動速度:35 – 50mm/s
- 押出し幅:0.45mm(Spiral vase適用時は1.0mm)
- 参考プリセット:
- プリント設定:0.20mm QUALITY@MINI、0.40mm QUALITY@0.8 nozzle MINI
- フィラメント設定:Prusament PLA
印刷結果
ここでは、ThingiverseとPrintablesからテストプリント用にいくつか選び、3色フィラメントで印刷しました。ベンチマークとして利用されるモデルや花瓶、ペン立てのような筒状のものなどを用意しました。
1. 3DBenchy
FFF式3Dプリンタでは有名なベンチマークです。オーバーハングやブリッジ、文字の印字、寸法精度などさまざまな要素の評価に活用されています。
≫ 3DBenchy – The jolly 3D printing torture-test by CreativeTools.se by CreativeTools (Thingiverse)
印刷自体は特に問題がなく成功しました。以前の2色フィラメントよりも色が増えている分、見え方もさまざまでとても面白いです。また今回はシルク調で艶があるので、各色とグラデーションが映えてキレイです。ブリッジやオーバーハングでは荒れた様子は無かったです。
一方、操縦席や甲板部分では糸引きが、船首では小さい穴がいくつか見られました。糸引きが発生しやすいボーデン型3Dプリンタで印刷したのが要因かと思いますが、スライサー上でリトラクション値や射出量を調整することで改善できると思います。また、フィラメントが吸湿していた可能性もあり、開封直後でもフィラメントドライヤーで乾燥する必要がありそうです。
2. Temperature tower
温度設定を下から上に向けて5℃ずつ変化させることで、フィラメントの糸引きやオーバーハング、ブリッジなどを評価して適正な温度を調べるためのモデルです。SmartTemperatureTower_PLA_180-225.stl
を使用しました。なお、印刷の際はPrusaSlicerの”Before layer change G-code”にPLA_t_tower_before_layer_change_macro.txt
の内容を追加する必要があります。
≫ Smart compact temperature calibration tower by gaaZolee (Thingiverse)
Temperature towerでは180 – 225℃の範囲を5℃刻みでフロア(階層)が設定され、フィラメントの推奨温度範囲全体(180 – 220℃)の結果を見ることができます。
- 糸引き:タワー右側のコーンを見てのとおり、すべての温度で糸引きが発生しています。ただし、どのフロアも糸引きの程度に大きな差はありませんでした。
- オーバーハング:左右両側を見ると、220℃以上のフロアで少し荒れてる様子はありましたが、あまりにもひどく荒れた箇所はなかったです。
- ブリッジ:どのフロアもキレイにブリッジが印刷されていました。
- 表面の穴:小さな穴が各フロアで見られました。3DBenchy同様、リトラクション値や射出量の調整不足、フィラメントの吸湿が原因かと思います。
3. Rotating Rings Toy
上記2つモデルは印刷品質を評価するために利用されるものでした。以降では具体的なものを作ってみたいと思います。
まずは、複数のリングが一体となったおもちゃです。リングの間には隙間があり、クルクルと回して遊ぶことができます。リングは取り外しができない設計なので、3Dプリンタならではの作例としてよく利用されます。
≫ Rotating Rings Toy by Marvin (Printables)
今回はクリアランスが緩いrotating-rings-toy_looser-tolerances.stlを使いました。印刷速度を速くしたので若干荒れていますが、3色のグラデーションがキレイに表れています。隣接するリングがくっつくことはなく、スムーズにくるくると回すこともできます。
キズが付くとせっかくの3色がもったいないので、クリアランスはむしろ緩いぐらいがいいかもしれません。また、しばらくクルクル回して遊んでみましたが、積層が割れたり壊れたりすることはありませんでした。
4. Vase / Pen Holder
2色フィラメントでテストプリントしたとき、花瓶やペン立てのような筒状のデザインと相性が良かったので、今回もそのような3Dモデルを使って印刷してみました。
≫ Vase / Pen Holder by Mistertech (Printables)
ここではPrusaSlicerのSpiral vaseモードを有効にしました。また一般的なノズル径0.4mmだと線が細くて強度が弱くなるので、0.8mmノズルに交換して吐出幅を1.0mmにしました。
3色のグラデーションがモデルの曲面と相まってとてもキレイに印刷できました。Spiral vaseモードでは一筆書きのようなパスで印刷するので、糸引きは発生しません。側面を1.0mm厚にしたので、手で掴んでも割れることはありません(多少は変形しますが)。Spiral vaseモード & 0.8mmノズルと2色/3色フィラメントの相性は良いですね。
5. Spiky Pencil Holder
上記のモデルは側面が曲面状だったので、今度は刺々しいモデルを試しました。なお、印刷時はX / Y方向のスケールを75%にして細長くしています。
≫ Spiky Pencil Holder by JamesThePrinter (Printables)
トゲ部分ではノズルの移動の切り返しが激しく、外側に表れる色はそれに応じて変化します。そのため若干色が混ざった印象になりますが、それも色の変化の一つとして良い感じに印刷されています。もちろん、吐出幅1.0mmで印刷したので壁の厚みと強度は十分です。
ターンテーブルからわかる色の変化
ターンテーブルに載せて動画を撮ってみました。動画を観ると3色フィラメントの変化がキレイに出ている様子とともに、単色フィラメントでは表現できない色彩を楽しめると思います。
実感した3色フィラメントのポイント
以前レビューした2色フィラメントと被りますが、今回複数のモデルの印刷を通して感じた、3色フィラメントのポイントは以下のとおりです。
- ランダムに変化する3色のグラデーション
- Spiral vaseモードとの相性
- 糸引き
ランダムに変化する3色のグラデーション
市販の家庭用3Dプリンタさえあればこのフィラメントを使うだけで、新工芸舎の“tilde”や積彩の“遊色瓶”といった色彩豊かなオブジェクトを作ることができます。フィラメントをロードするだけで特殊な設定は不要、3色のグラデーションが良い感じにオブジェクトを彩ってくれます。
以前レビューした2色フィラメントでも十分キレイで面白かったのですが、3色フィラメントの方が色数が多いので、より様々な見え方を楽しむことができます。通常の単色フィラメント、そして2色フィラメントと比べると価格は高くなりますが、その価値はあると思います。
ただ、2色フィラメントのレビューでも述べましたが、この種のフィラメントを使って表れる色のグラデーションは、ベッドに対するオブジェクトの向きやノズルの移動経路、フィラメントの向き、PTFEチューブの抵抗など、さまざまな要素が積み重なった結果です。
もしグラデーションを狙って出したいのであれば、テストプリントして色の出方を確認して、フィラメントの配置や供給経路、向きを調整すれば実現可能かもしれません。ただ、印刷途中でフィラメントの向きが次第に変わってしまうこともあるので、完全に制御するのは難しいです。
または、複数のフィラメントを溶かして吐出することで、色を制御するDiamond hotendという仕組みがあります。これを使うには3Dプリンタの改造、試行錯誤が必要です。興味ある方はこちらをご覧ください。
≫ Diamond Hotend – RepRap
Spiral vaseモードとの相性
2色フィラメント同様、この種のフィラメントは円筒状のモデルとの相性が良いです。
3DBenchyのような複雑なモデルでは、ノズルの切り返し動作が多くなり色の見え方も変化するため、少し3色が混ざったように見え、グラデーションが曖昧になります。
一方、花瓶やペン立てといった回転対称性を持つモデルであれば、側面に凹凸があっても基本的な形状は円(多角形)であり、ノズルはそれを描くように動いてフィラメントを吐出します。これにより3色が120℃ずつ分かれたような見え方をするので、3色のグラデーションがよりキレイに見えます。
なお、個人的にはモデルの側面は曲面である方が、色のグラデーションがより活きると感じました。
糸引き
開封直後の状態でテストプリントを行いましたが、オブジェクトに糸引きが多く見られました。Prusa MINI+がボーデンタイプで糸引きしやすいのもありますが、リトラクション値や射出量といったパラメータの調整、あるいはフィラメントの乾燥が必要かと思います。
なお、今回のテストプリントのような軽度の糸引きであれば、ターボライターやバーナーで軽く熱すれば簡単に除去できます。糸引きの処理方法が気になる方はコチラの記事をご覧ください。
≫Prusa i3 MK3S+の組立に便利な工具5選 | Hiroloquy
さいごに
本記事ではReprapperさんよりご提供いただいた3色フィラメント シルクPLA(グリーン / パープル / コッパー)を実際に印刷してレビューしてみました。「変わったフィラメントで遊んでみたい!」「3色フィラメントを実際に使ってみたい!」という方の参考になれば幸いです。
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